江戸呑み……与志乃(京橋)

■江戸東京…敬意を表する先輩同輩が営む名店

■与志乃(京橋)

  

 中央通り京橋交差点相互館110タワー裏の路地に昭和二十四年創業老舗江戸前寿司店「与志乃」。先代(初代)の吉野末吉氏は「すきやばし次郎」の小野二郎氏、「鮨 水谷」の水谷八郎氏、「鮨 松波」の松波順一郎氏、「鮨 青木」の青木利勝氏らの師匠にあたり、いわばこの店が与志乃系の総本山といえる存在である。また「久兵衛」「奈可田」と並び銀座の寿司御三家に数えられとともに、池波正太郎先生が「ここの寿司は連綿と続く江戸前の小粋な味がする」と絶賛していたことでも有名である。基本予約制であるためあらかじめ月曜日の正午に予約を入れておく。一軒家風の玄関の引き戸を空け階段を二階まで上がるとカウンターがある。この階段はまだ米が統制化におかれヤミ米で営業していた時代に、当局の目を眩ます目的で作られたとか。この入ってすぐ階段というスタイルはここ与志乃から巣立った鮨松波にも受け継がれている。階段を昇ると二代目ご主人と女将さんが迎えてくれる。

 カウンターに腰掛ける。他に客はいない。まずは賀茂鶴ゴールド、肴に蒸し鮑・茗荷・真子鰈。どれも旨い。今年六十七になるという気さくなご主人との話が楽しい。

酒の替わりをもらい握ってもらう。漬け鮪・鯵・赤貝・烏賊・雲丹・コハダ・青柳・車海老・煮蛤・穴子。きちっとした江戸前の仕事が施されたネタに柔らかめ尚且つ酢のきいた舎利が与志乃流。ご主人が修行した父上(先代の親方)の時代には、舎利がもっと大きかったのだという。先代の親方の時代を偲び少し大きめに握ってもらうのも面白い。どれも旨い、至福のひととき。そして最後に与志乃系名物の玉子焼き。芝海老と才巻海老のすり身を使ったこの玉子焼きはふくっらとまるでカステラのような趣。全て食べきったところで名残惜しいが午後からの予定もあるのでお勘定。ご主人と女将さんに旨い寿司と楽しい時間の礼を言い店を出る。時代の移り変わりとともに好まれる寿司のかたちや店のあり方というものも変化してきているのだと思うけれども、派手さや凝った装飾は少ないが江戸前の仕事の基本に忠実に六十年以上守られてきた寿司がここ「与志乃」の寿司なのだろうと思った。そういった意味でここ「与志乃」が貴重な江戸前寿司店であることは間違いない。


与志乃

 

東京都中央区京橋3丁目6–5

03−3561−3676