江戸呑み……いし橋(神田嬬恋坂)

■江戸東京…敬意を表する先輩同輩が営む名店

■いし橋(神田嬬恋坂)

  

 蔵前橋通り嬬恋坂の交差点の外神田三丁目側にそこだけ桜の木などが茂っている歩道がある。その角から二件目にすき焼「いし橋」。明治5年に「石橋牛肉店」として創業、その後明治12年年にすき焼屋を併設、現在の日本家屋風の建屋は昭和25年に建て直されたもの。2010年よりミシュランガイドにも取り上げられている完全予約制の老舗すき焼店である。今回はソンクラーン休みを利用し家族3人で日本へ一時帰国していたが、その最終晩にすき焼きを食べようとここ「いし橋」を訪れた。店に入ると玄関先で四代目き久江女将が迎えてくれる。階段を昇り二階の個室に通される。床の間に牛の置物が飾られている。

 まずはキリンラガーで乾いた喉を潤す。先付けは芹のお浸しと新筍の焼いたもの、それから鰆の西京焼きのようなもの。彩りよく盛りつけられておりどれを食べても旨い。と野菜が運ばれる。牛肉はサシの入り方が見事な霜降り肉。仲居さんから今日の肉は鹿児島産であると説明がある。実は牛肉というのは平均すれば産地による差は殆どなく、むしろその日一番よかった肉がどこの産地だったかということが問題らしい。

早速焼いてもらう。熱くなった鉄鍋に絶妙な加減で割り下が足されていく。ちりちりと鍋で焦げる割り下の香ばしい香りがする。牛肉はすぐに焼きあがる。溶き玉子にくぐらせ口に運ぶ。旨い。融点が低い上質なサシが入った肉は甘く口の中でとろけるよう。すぐに次の肉が焼きあがる。至福のひと時。さらに豆腐や野菜も焼きあがるがこれも割り下との相性がよく旨い。また玉葱が入っているすき焼は東京では珍しい。

今回はあらかじめ牛肉を一人前追加してもらっていたので結構なボリュームだ。酒をもらう。牛肉と野菜を平らげたところでお腹が一杯になってしまった。来店後の追加注文が出来ないためあらかじめ牛肉を追加しておいたが、流石に若い頃はともかく中年になるとすき焼の霜降り肉は一人前で十分のようだ。〆のおじやは味見だけさせてもらうことに。表面のふわっとした部分と鍋底のおこげの部分が両方味わえるよう、まるでケーキのカットのような要領で取り分けられる。旨い。残念ながらこれ以上は無理なので残りはパッキングしてもらうことにした。最後に上がりをいただきお勘定。玄関でき久江女将が切り火で送り出してくれる。ご馳走様でした。

その晩遅くにホテルで先ほどのおじやのパックをあけてみると、食べ残しの持ち帰りという感は一切なく、誰もがはなから持ち帰りように頼んだ一人前のパックであると思うがごとく美しくパッキングされていた。老舗職人の仕事の丁寧さ、そしてお客に対する気配り目配りに感服した。


■いし橋

 

東京都千代田区外神田3丁目6–8

03−3251−3580